現役投資家FPが語る

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【円安圧力】新NISAが原因?円売りを減らす方法とは?


2024年からスタートした新NISAが円安に拍車をかけていると報道がありました。

 

実際、投資信託を通じた家計の円売りが膨らんでいるようです。

 

私たちの投資行動が円安に拍車をかけ、物価高を助長している構図になっています。

 

一人ひとりは、良かれと思って行なっている行動が、結果的に自分達の首を絞める。

 

まさに合成の誤謬が発生している状態。

合成の誤謬とは?

個人が合理的な行動をとっても多くの人が同じ行動をとることによって、全体としては悪い状態になること。

 

新NISA経由の円売りを減らす手段はないのでしょうか。

 

今回の記事では、円売りの流れを阻止する方法を解説します。

 

 

新NISAが要因の円売りとは?

新NISA少額投資非課税制度)の導入が円安に影響を与えているとされています。

 

2024年1月から始まった新NISAは、非課税の投資枠が大幅に拡充され、個人投資家が積極的に海外資産に投資する動きを促しています。

 

2024年1~6月の海外の株式・ファンドの買越額は6.1兆円と同期間の貿易赤字額(4兆円前後)を上回る見通し

 

新NISAを活用した積み立て投資は長期投資が多く、海外への投資マネーの流れは細りにくいのが特徴。

 

今後も月1兆円ペースの円安圧力は続くとの見方が強まっています。

 

実際、三菱UFJアセットマネジメントの全世界株式型投信「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(オルカン)は、半年で1兆3408億円が流入。

 

また、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」には上半期で1兆261億円が流入しました。

 

個人投資家がオルカンやS&P500を購入すれば、円を売ってドルを買うオペレーションが発生

 

S&P500であれば、100%がドルで運用されます。

 

また、オルカンでも6割以上がドル転され、日本円のまま運用されるのは約6%程度です。

 

このような事態は下記の記事で解説した通り、新NISA制度が始まる前から予想できたこと。

 

机上の空論で制度を設計するからこのような間抜けな状況になるのです。

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キャピタルフライトが起こる可能性

円安の流れが止まらない中、閣議決定された「骨太方針2024」には2025年度の基礎的財政収支(PB)の黒字化が明記されています。

 

今後はPB黒字化に向けてより緊縮的な政策が行われていくでしょう。

 

このまま緊縮的な財政運営が続けば、景気の低迷が長期化し、日銀(日本銀行)は利上げをしづらい環境が続きます。

 

米国のインフレが落ち着かなければ、円安傾向が継続することも考えられます。

 

円安は円の価値の毀損につながるので、キャピタルフライトが起こる可能性もあります。

 

キャピタルフライトにより更に円安が進行し、その円安により更なるキャピタルフライトが起こるという負のスパイラルが発生することもあり得るでしょう。

 

キャピタルフライトとは?

資金がある国から他の国に急に移動することを指す。

 

キャピタルフライトは、国内の不安定な政治・経済状況、通貨価値の急激な低下や資産価値の減少などが原因で起こる。

 

 

新NISAへの投資資金を国内株式に振り向ければ円安は止まる?

個人の投資資金を日本国内に振り向けるために、新NISAに「国内投資枠」を設けるという案が出てます。

 

しかし、この案は対処療法でしかありません。

 

個人の投資資金は、日本の株式市場に魅力がないから海外株式型の投資信託にが流れている状況。

 

この根本原因を除去する必要あります。

 

また、新NISAは円安の一要因でしかありません

 

円安の最も大きな要因は日米の金利差であり、デジタル赤字や投機的な円売りなども考慮する必要があります。

 

更に日本証券業協会が大手証券10社への聞き取りを基にまとめた資料によると、2024年1~5月のNISA経由の買い付け総額は6兆6000億円で、うち国内株式の比率は44%で3兆円弱。

 

データ上は半分近くの投資資金が国内株式に流入している状況。

 

現状以上に個人の投資資金を無理やり国内株式に振り向けるのはいかがなものでしょうか。

 

 

円安の流れを止めるためには「資産所得倍増」ではなく「所得倍増」が必要

では、どのようにすれば円安の流れを阻止できるのでしょうか?

 

円安を食い止めるためには新NISAに「国内投資枠」を設定するようなその場しのぎの対処ではなく、根本的に円安要因を取り除くことが必要です。

 

先述の通り、円安の大きな要因は日本とアメリカの金利差。

 

円安を止めるには、下記の2つの方法があります。

  • 日銀が金融緩和を止めて金利を上げる
  • 米国の利下げを待つ

 

米国の利下げは米国経済次第なので、日本が取れる方法は日銀が完全に金融緩和を止められるように日本の景気を浮上させること。

 

つまり、資産所得倍増」ではなく、景気を浮上させて「所得倍増」を目指す必要があります。

 

バブル崩壊後の約30年間、日本経済は低迷を続けてきました。

 

最近では、2014年に5%から8%、2019年には8%から10%へと2度の消費増税が行われ、更にコロナの蔓延で日本経済は瀕死の状態。

 

日銀の黒田前総裁は2013年から日本経済を浮上させるべく、消費者物価の2%上昇を目指して緩和政策を継続してきました。

 

しかし、中央銀行の金融緩和政策だけでは景気を浮上させることはできません

 

これは日銀が10年超という長期に渡り金融緩和を続けてきても日本の景気が浮上しなかったことで証明済み。

 

では、どのように日本の景気を浮上させるべきなのか?

 

そのヒントはアベノミクスの失敗にあります。

 

第2次安倍政権において、安倍晋三首相(当時)は下記「3本の矢」を柱とする経済政策を行い日本経済を立て直そうとしました。

  1. 大胆な金融政策
  2. 機動的な財政出動
  3. 民間投資を喚起する成長戦略

 

しかし、アベノミクスは失敗しました。

 

失敗の要因は、1本目の矢である大胆な金融政策は行われましたが、2本目の矢である機動的な財政出動が行われなかったから

 

財政出動が行われなかっただけでなく、二度に渡って消費税増税まで行われ、日本経済は更に弱体化。

 

瀕死の状態である日本の景気を浮上させるには、大胆な金融緩和を行いつつ積極的に財政を出動し、個人や民間企業がお金を使う状況を作り出す必要がありました。

 

しかし、バブル崩壊後の30年間行われたきたことは全く真逆の緊縮財政

 

国債残高が増えれば「日本は財政破綻する」や「ハイパーインフレが起こる」などといった誤った考え方が日本に蔓延してプライマリーバランス(行政が行うサービスにかかる経費を、税収で賄えているかどうかを示す指標)の黒字化を重要視してきました。

 

緊縮財政が行われ続けたことにより日本経済は疲弊し、2年間で2%のインフレ目標を達成する予定だった日銀は10年以上も金融緩和を継続することになっています。

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日本経済復活には金融政策と財政政策の両輪が必要

景気が悪い時に個人や企業が節約するのは、非常に合理的なこと

 

景気が悪い状況下では個人は節約し、需要が停滞している中で企業は設備投資を控えます。

 

経済が停滞している状況下で、お金を使えるのは国(政府)しかありません

 

国(政府)の大胆な財政出動を呼び水として、個人や企業が積極的にお金を使う状況を作り出す必要があります。

 

財政出動の財源は何か?それは国債です。

 

日本(政府)の国債残高は1000兆円を超えており、このままでは財政破綻すると主張する方がいますが、自国通貨建ての国債を発行できる日本が財政破綻(デフォルト)することはありません

 

財務省も外国格付け会社宛意見書要旨で「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」としています。

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よって、3~4%程度のインフレ率になるまでは国債を発行して財政出動することでデフレ不況を脱する必要があります。

 

自国通貨建ての国債を発行している国の財政破綻(デフォルト)はないので、インフレ率を目標に財政出動すべきです。

 

消費税を廃止してデフレ脱却を目指す

国債を発行し、何を行うべきか?

 

真っ先に行うべき政策の1つが、消費税の廃止です。

 

消費税を廃止して消費が増えれば、経済は活性化します。

 

経済が活性化して国内の需要が増えれば、企業は設備投資を増やすでしょう。

 

個人も企業もお金を使うようになれば、更に経済は活性化します。

 

上記のような好循環が発生すれば、企業は儲かるので従業員の給与も上がるでしょう。

 

給料が上がって消費が更に活性化すれば、デフレを脱してインフレになります。

 

需要が増えることによるインフレはディマンドプルインフレと呼ばれ、経済が好循環する良いインフレです。

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ディマンドプルインフレにより物価が上がるようになれば、日銀(日本銀行)による金融緩和政策の出口も見えてきます

 

日銀が金利を上げられる状況になり、日米の金利差が縮まるようになれば、極端な円安の流れも落ち着きます。

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更に日本経済の好循環が続けば、法人税や所得税の税収が増え、結果的にPB(プライマリーバランス)黒字化も達成できる可能性があるでしょう。

 

 

まとめ

新NISA(少額投資非課税制度)の導入が円安に影響を与えているとされています。

 

2024年1月から始まった新NISAは、非課税の投資枠が大幅に拡充され、個人投資家が積極的に海外資産に投資する動きを促しています。

 

このような事態は、新NISA制度が始まる前から予想できたこと。

 

新NISAに「国内投資枠」を設けるというような小手先の対処療法では円安の流れは止まりません。

 

日本人の所得が倍増するような積極財政を行えば、日銀が金利を上がられる状況になります。

 

日銀が金利を上げれば、日米の金利差が縮まり、極端な円安の流れは落ち着くでしょう。