人生100年時代と聞いて老後が心配な方も少なくないでしょう。
人生100年時代が近づく状況の中、タイトルがショッキングな下記の本を読みました。
『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』
一億総中流だと思われている日本で、一億総老後崩壊の危機が迫っているという内容。
実は、高齢化が進む日本では多くの方が下流老人に転落・老後破産する可能性があり、他人ごとではありません。
下流への転落を避けるための方法は、事例を研究して早めに対策を手を打つことです。
そこで今回の記事では、下記の点を確認したいと思います。
- 下流老人とはどのような人達なのか?
- 下流老人に転落し、老後破産する原因とは?
- 下流老人への転落や老後破産を防ぐための対策とは?
下流老人とは?老後破産は身近に起きている?
下流老人とは著者の造語で、普通に暮らす事の出来ない下流の生活を強いられている老人を指します。
著者の定義は『生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者』とのこと。
例えば、首都圏に住む一人暮らしの高齢者の場合、生活保護で支給されるお金は月額13万円程度。
下流老人は下記のような生活を強いられていると、本の中で紹介されています。
- 日に一度しか食事が取れない
- 生活の苦しさから万引きをする
- 医療費が払えず病気を治療できない
そして、下流老人には3つの「ない」が存在すると指摘されています。
- 収入が著しく少『ない』
- 十分な貯蓄が『ない』
- 頼れる人間がい『ない』(社会的孤立)
総中流と言われてきた日本に下流老人はどの程度いるのでしょうか?
高齢者のうち約600万人が一人暮らしをしており、うち半数近くは生活保護レベルの暮らしをしているというデータがあるそうです。
気付かないだけで、老後破産は身近で起きているのでしょう。
下流老人に転落し、老後破産する原因とは?
本の中では、下流老人に転落した事例がいくつか紹介されています。
下流老人と聞くと、もともと収入が少ない方ばかりなのではないかと思っていないでしょうか。
実は、現役時代の年収が高かった地方銀行勤務の方でも病気と離婚で、下流老人に転落した事例が紹介されています。
下流老人に転落した方が異口同音に口にするのが「自分がこんな状態になるなんて思いもしなかった」という言葉とのこと。
実際に老後破産する方の多くが、まさか自分がという想定外の事態なのかもしれません。
本の中に出てくる4人の実例では、下記のような想定外の事態がきっかけで下流老人に転落しています。
- 親の介護で正社員を辞める
- 子供のひきこもり
- 病気による高額な医療費の支払い
- 熟年離婚による年金分割
老後破産や下流老人化は自己責任なのか?
今後の日本では現役時代の年収が400万円程度の方も下流転落のリスクがあると、著者の藤田さんは指摘しています。
民間企業で働く人の2019年の年間平均給与は436万4,000円(国税庁の民間給与実態統計調査)ですが、平均並みの年収では下流老人に転落し、老後破産の可能性があるということ。
現在の日本では現役世代の収入が上がらない、また、老後に受け取る年金額は減額の傾向があるなどの理由で、下流老人を生み出す社会構造になっていると著者は指摘します。
下流老人に転落する方に対して、「自己責任」という言葉だけで片付けられる状況ではありません。
下流老人や老後破産を避けるための対策とは?
著者は、下流老人に転落する方達が悪いわけではなく、下流老人を生み出す日本社会が悪いと断じています。
しかし、社会に不満をぶつけたところで、すぐに社会の仕組みが変わるわけではありません。
私たちにできる下流老人への転落を防ぐ対策を考える必要があります。
では、下流老人への転落や老後破産を避けるために、どのような対策があるのでしょうか?
社会保障制度の理解
社会保障制度を理解し、知識を持っていることは非常に重要。
日本の社会保障制度は「申請主義」なので、制度を知らずに「申請」しないと給付や支援を受けることはできません。
「申請主義」を採用する理由は、社会福祉制度を受けない権利にも配慮する必要があるという論理です。
「医療保険」
公的医療保険制度の知識は非常に重要です。
下流老人に転落するパターンの1つとして、高額な医療費の支払いがあります。
本書の中に心筋梗塞の治療代が高く、3,000万円あった資産を7年間で減らした方の話が出ていますが、「高額療養費制度を知らなかった」とのこと。
高額療養費制度を利用すれば、医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が後で払い戻されます。
高額療養費制度は医療費が高額になったからといって、自動的に払い戻しを受けられるわけではありません。
申請が必要です。
また、お金が無かったり、健康保険証がない低所得者などに対して、医療機関が無料または低額な料金で診療を行う無料低額診療事業があります。
「公的年金」
下流老人の中には、「こんなに年金が少ないと思わなかった」と言う方も少なくないようです。
老齢年金に関しては、毎年1回送られてくる「ねんきん定期便」を確認し、どの程度の年金を受け取れるのかを認識しておくべき。
また、公的年金には「障害年金」や「遺族年金」など、保険的な機能があることも知っておく必要があります。
「生活保護」
生活保護は、受け取ることに後ろめたさを感じる方も多いでしょう。
しかし、著者は生活保護を受ける権利は全ての方にあり、苦しい状況に陥った際には、変なプライドを捨て受給すべきとアドバイスしています。
生活保護は、住民票登録がない場合、つまりホームレスでも申請可能。
また、公的年金や労働収入があっても基準額に満たなければ、申請できます。
間違った知識を持っていると、いざという時に支援を受けられるず、一気に老後破産へと転落する可能性があります。
老後資金の準備
不足額は個人ごとに異なりますが、「老後2000万円問題」で指摘されたように公的年金だけでは暮らしてはいけないという認識が必要。
しかし、公的年金が老後の柱であることは間違いありません。
公的年金で受け取れる額を認識しつつ、不足する額を補うために「お金を働かせる」という意識をもつべきです。
何もやっていないという方には、「ほったらかし投資」がおすすめです。
人間関係の強化
技術の進歩とともに人間同士のつながりが薄くなりつつあります。
著者の藤田さんは人間関係が希薄だと社会的に孤立し、下流化のリスクが高くなり、逆に人間関係が豊かだと資産が少なくても下流化しない可能性があるとしています。
ライフ・シフトでも指摘されていましたが、長くなる人生においては、お金などの「有形資産」だけでなく、「無形資産」の1つである活力資産(良好な家族・友人関係)が必要でしょう。
藤田さんは誰もが支え合い誰かに依存して生きていて、真に自立している人間はいないと指摘。
人生100年時代を前に人を支え、人に支えられる関係を大事にすることが重要であることを再認識すべきでしょう。
まとめ
人生100年時代になると、病気や介護などの想定外の事態に遭遇する確率は高くなります。
そのような際に下流老人への転落や老後破産を防ぐためには社会保障制度を知り、老後資金の準備をしておくことが必要。
そして、お金などの「有形資産」だけでなく、人間関係という「無形資産」についても豊かにしておくことが重要です。